海外数か国周ってもトラブルなど何もなかった僕が、帰国直後イカツいハゲに絡まれた。
いったいどういうことだろうか。
これまで、世界一周などといった大それたことでなく、少しではあるが海外に何カ国か行ったことがある。旅行もあればワーキングホリデーで働きながら1年住んだこともあった。
ペルーのリマなど治安が悪いとされる国に行ったこともある。だが、治安が悪いとされている地域では行動を最小限に抑えたり、スリに合わないよう常に危険を意識したりと自己管理は徹底していたこともあって、これと言ったトラブルに巻き込まれることはなかった。
もともと平和主義でもあるため、喧嘩などはしたくないし、暴力とは無縁の世界で生きてきた。というかビビリな性格で、喧嘩などしても勝てる気はしない。誰かと争うなど、できることなら今後も避けていきたい。
そして、今年の9月上旬に入り、日本へ帰国した。約1年弱ぶりといったところだ。東京の安いゲストハウスのようなところを前もって予約していた。
帰国して2日目、普段からSIMフリーのスマホを使っていることもあり、格安SIMを契約しようと錦糸町へと向かった。どこの会社がいいのかはよくわからなかったが、とりあえず番号さえ手に入ればいいと思い、適当に契約しようとショップの中へ。
若い女性の店員さんにプランなどもろもろ訪ね、動作確認をしてもらっていた。その時だった。動作確認中、暇だった僕はぼーっと外を眺めていた。そのお店は路面店で1階。すぐ外には人が何人も通っている。
そこに一人、黒のスーツをまとったハゲがいた。いや、正確にはその男がいたことなど僕は気づいていなかったのだ。ただぼーっと眺めていただけなのだから。気づいたのはその後の出来事がきっかけだった。
その男が店内に入ってきたのだ。だがそれ自体はなにもおかしなことではない。ここは携帯ショップ。契約でもしに来たのだろう。その時の僕はそう思った。
だが、違った。その男は僕の近くまで寄ってきた。
「お前何なんだよ」
その男がいきなり言った。突然の出来事に驚きを隠せなかった。「お前何なんだよ」と言われても、僕は何でもない。少なくともこのスーツをまとったハゲにとっては、何でもない。
僕はぽかんとしながらそのハゲを見ていた。すると男はこう続けた。「お前債権者?ウチから金借りてんの?」と。
どうやらどこかの金融関係の男のようだ。この感じはいわゆる”闇金”といわれるアレなのだろうか。だとしたら、とりあえず、コワい。
もちろんだが、僕はそういったところからお金を借り入れてはいない。だが、今にも殴りかかって来そうな気配だった。この携帯ショップの中でだ。勘弁して欲しい。
「お前なに見てんだよ」
さらにそう言ってきた。
「お前なに見てんだよ」
こんなセリフ、何世紀ぶりに聞いただろう。典型的な地元の不良が他校の生徒に使う言葉ではないだろうか。
「お前何中だ?」
後にはそんな言葉が続くかと思ったが、さすがにそれはなかった。だが、「このクソガキが」と続いた。
「このクソガキが」
ちなみに、僕は今年で31になる。その男は年齢がわかりにくい容姿だったため、30代半ばから後半かと思われるが、20代後半と言われればソレはソレでありかとも思える。とりあえず、まさかこの年になってまでクソガキと罵られるとは思わなかった。
だがまずこの場をなんとかしなければならない。僕はビビりながら小さな声で「見てないです」と伝えた。本当に見ていない。
ハゲの男に興味などはない。この黒のスーツをまとったハゲ、黒スーツハゲ、黒ーツハゲ、黒・ツハゲさんなどにこれっぽちも興味などないのだ。
美女、もしくは男でも見とれるほどのきれいな顔立ちのイケメンでもない限り、他人をじっと見ることなど、まずありえない。もちろんそんなことを言えるはずもないため、とにかくこの場をやり過ごそうと「すみません」と言っておいた。
なにも謝るようなことをしていないが、しょうがない。とにかくこの黒ハゲには早く出ていってもらわなければいけない。
「俺の勘違い?クスリやりすぎかな?」
そう言ってきたが、本当にヤッていてもおかしくはないため、「いや、わかんないですけど…」
そう答えた。するとハゲ黒さんは、
「嘘だよバーカ」
そう言って、お店を出ていった。
助かった。
というか、何なのだコレは。日本は比較的治安が良い国だと認識している。だが、海外数か国を周っても、こんな経験はなかった。だが帰国してたった2日で、いきなり黒のハゲの輩に絡まれた。日本のほうが危ないではないか。
コワイコワイコワイコワイ
とりあえずそのうちキックボクシングでも習おうかな。